俳句

ずぶぬれて犬ころ

 ずぶぬれて犬ころ     住宅顕信

              『未完成』

17音を使える俳句ですが、この俳句は9音しか使っていません。

短い言葉ですが作者は表現しきっているのでしょう。

白血病の作者の人生は25年でした。

私たちも平均寿命から自分の年齢を引き算すれば、

あと10年、20年の人生かも知れません。

だからこそ短詩形の俳句に余分は置いて表現したいものです。

咳の子のなぞなぞあそびきりもなや

 咳の子のなぞなぞあそびきりもなや     中村汀女

                    『汀女句集』

風邪をひきコンコン咳する子供、終わらないなぞなぞ遊びに付き合う母親。

なぞなぞが尽きれば、母はどこかに行ってしまうのではという心細さ。

だんだんと問い掛けは、なぞなぞになっていないかも知れません。


日記買う姉の意地悪書くために

 日記買う姉の意地悪書くために     三原瑛心

                「17音の青春」

GPSの位置情報アプリ、弟の現在位置を知るために使っている姉は多い

「鍵を忘れたから、開けといて」

「〇〇の近くにいるなら、〇〇買っておいて」

などなど

「けっこう、便利だよね~」、と

この”便利”は”弟”に対してでさえなく、”アプリ”に対して

三月の甘納豆のうふふふふ

 三月の甘納豆のうふふふふ     坪内稔典


国語の教科書にも載っている有名な俳句

俳句は17音、季語を入れれば残りはわずか

上五の「三月の」で季語が入り、残り12字

けれど、「 甘納豆のうふふふふ 」の意味や解釈は広い広い

吹雪くねとポストの底の葉書たち

 吹雪くねとポストの底の葉書たち     高野ムツオ

           『あの時 俳句が生まれる瞬間』

「吹雪くね」、とセリフの入った口語俳句、しゃべっているのは葉書たち。

ポストの底に重なって、励ましあっている。

投函口から冷気だけでなく、雪の欠片も入って来る。

そして、吹雪く音も聞こえてくる。

頑丈なポストの中とはいえ、少し不安で、少し安心

じゃんけんで負けて蛍に生まれたの

 じゃんけんで負けて蛍に生まれたの   池田澄子

                 句集『空の庭』

リインカネーション(輪廻転生)の句。

この世に生まれる前、みんなでじゃんけんする。

じゃんけんで勝った者から、人間が良いだの、

鳥はよいだの、ライオンがよいだの・・・決まってく

私は負けてしまったので、残っていたのは蛍に生まれることでした。

春の風苦しむ鶏を抱きにゆく

 春の風苦しむ 鶏 ( とり ) を抱きにゆく   宇多喜代子                 『りらの木』 むかし、宇多喜代子さんがNHK俳句の選者をしてらした時、兼題に投稿された多くの類句類想に対して、 「みな、私と同じような思いをしているのを見ると嬉しくなる」 と...